鎌倉ばやし大町祇園会 副会長
山本 力さん

梅雨の便りが届き、路地のあちらこちらに色とりどりの紫陽花が咲き出すころ、夕刻、鎌倉の街には笛や太鼓の軽やかな音色が響き渡ります。これは、7月に迎える鎌倉祇園大町まつりに向け、子供たちががんばって練習している音。

その子供たちが所属する『鎌倉ばやし大町祇園会』。その歴史は古く、100年を超え大町に伝えられる伝統芸能で、現在は総勢50名を超える会員が所属しているそうです。

今回ご紹介する山本力さんは、鎌倉ばやし大町祇園会を率いる伝道師。30年以上のキャリアを持ち、平成13年には鎌倉市から郷土芸能保存の功労者として表彰されたそうです。山本さんは、「子供たちが太鼓を前にして、ワクワク・ドキドキしたような目を見ると自分の子供の頃を思い出します」とご自身も少年のような目をして語ります。「自分が子供の頃はお祭りが近づくと、雨の日も晴れの日もそれこそ嵐の日も、朝から晩まで毎日山車(だし)にすわって太鼓をたたき続けていました。よっぽど太鼓が楽しかったのでしょうね。最近、笑いながら町の長老たちに『あの時はうるさくて眠れなかったよ』と言われ、大町の懐の深さを痛感しています」とやんちゃな山本少年がそこにいるかのようです。

そんな山本さんが、今深刻な問題を抱えています。それは後継者の育成。

お囃子は、すぐにはたたけるようになるのではなく、何年もかけその技術を身に着けてゆきます。小さいころから鍛錬しても、中学・高校となるにつれ勉強や部活が忙しくなり、その大半が辞めていってしまうそう。一世紀以上にも長い歴史を経て受け継がれてきた伝統を次世代に継承し続けることが使命だと山本さん。

お父さんが神輿を担ぎ、その子供たちがお囃子で盛り上げる。そんな家族の絆でつながれている大町まつりを子供たちが親になった時も変わらずに続けてほしいと願います。

夕刻、ほんの少しだけ窓を開けてみてください。大町會館からテンテケテンと太鼓の音が子供たちの笑い声とともに聞こえてくるはずです。

7月の祭り本番。子供たちの日々鍛錬の成果をとくとご覧あれ。

2013年6月 取材
聞き手:澤渡俊仁

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